Dice-11




「民間人の総合避難率98.6%。
 避難地下シェルター内の避難民の整理もほぼ完了しています。
 達成水準は満たしていますが、どういたしますか?」


「……とりあえず、市内を散開している連中は引き上げさせよう。
 アレがここに到達すれば、すぐに街は戦闘区域になる。
 午前から救難活動に出張ってた人員は休息を取らせて、それ以外は保安局と一緒に交通機関と、市の境界付近の警備に回せ。
 危険だと感じたら任意で避難、そう伝えてくれ」


「了解」




部下からの無線報告を保安諜報部のライトバンの車内で受けた田中は、運転席のシートに身体を預けながら、しばしの思案の末に指示を下した。

地下避難シェルターの出入り口が集中する山間部の広大な駐車スペースから見上げる空はすでに日が沈みかけ、山吹色の夕日と青白い夜のコントラストに月がボンヤリと浮かんでいる。

普段なら人気がほとんどない静かなこの場所も、現在は第3新東京市の避難市民達の車両で埋め尽くされていた。

その中には一般車両に紛れてネルフ保安諜報部のライトバンや乗用車も駐車され、有事の際はすぐさま行動に移ることができるようになっている。

田中はシートに預けていた身体を起し、内ポケットから携帯を取り出すと、本部にいる酒井ミナコ三佐へ現在の状況報告の連絡を入れるため電話をかけた。

数回のコールで受話器の向こうから聞こえてきたのは、本人の気質からにじみ出るような、ややハスキーで落ちた付いた女性の声だった。




「お疲れ様です、田中です」


「あら、お疲れ様。
 どう? そっちの様子は?」



「市民の避難率が達成水準を越えましたので、非難支援活動は終了させました。
 シェルターの中もほぼ整理が終わりましたので、後は警備業務に移行します。
 予定よりも二時間近く掛かりましたが、我々の仕事はとりあえず、ひと段落といったところですね」


「そう。
 こっちもようやくひと息着いたわ。
 N2なんか使われて、こっちにもいろいろとばっちりが来ててね。
 ……まぁ、いいわ。
 何か変わったことがあったらまた連絡して」



「了解しました」




通話の終わった携帯電話を胸ポケットにしまう。

使徒の出現から食事も休息も取れず、やっと空いたこの時間にとりあえず一服入れようと、ポケットからタバコを取り出し、一本を口に咥え、車の車外に出た。

と、そのとき―――――――




「おい、君!! どこに行くつもりだ!!
 シェルターに戻りなさい!!」

「やかましい!!
 離さんかい!! このボケがっ!!」





咥えたタバコに火を付けようとしたところへ、突如言い争う声が耳に飛び込んできた。

声のする方向からして、地下シェルターの出入り口がある方からだ。

一人はおそらく諜報部の職員だろう、そしてもう一人は変声期は迎えているものの、まだ子供のものだと思われる声だ。

田中は、口に咥えたタバコを箱に戻すと、事態を確認するために声のする方へ走った。

立ち並ぶ車を掻き分け、地下シェルターへと続く整備された道の中ほどに黒服を着た諜報員二人と黒をベースにしたウィンドブレーカーを着た少年がいた。

少年は諜報員二人に両腕を掴まれ、それを振りほどこうと空いている足で諜報員二人を必死に蹴り上げている。

年齢は中学生くらいだろうか、その世代の平均身長に比べればやや大柄だが、大の大人、それも日ごろ訓練を重ねている諜報員たちには敵うはずもなく、呆気なく地面へとねじ伏せられた。

田中は三人のそばまで駆け寄り、いまだ田中の存在に気づいていない諜報員二人に声をかけた。




「おい、どうした」


「ああ…、田中二尉……。
 申し訳ありません、この子供がシェルターから飛び出したもので、慌てて追いかけてきたのですが…」


「離せッコラァァァァ!!
 はよう行ってやらんとッ…ナツミが危ないんや!!」



「…ナツミ?」




我を忘れたように絶叫する少年の言葉に疑問を思った田中は、諜報員二人に拘束を解かせ、少年を起した。

だが、拘束が解けた途端に再び走り出そうとする少年を、今度は田中が抱き抑える。




「おい、落ち着け。
 君の名前と年齢は?」


「そないなもん聞いてどうするんや!!
 シェルターの中にもおらんし、はよう行かな間に合わなくなるやろがッ!!」





――――――――――パンッ




平手で頬を打つ短い音が響き、少年の絶叫は止んだ。

突然の上司の行動に、そばで見ていた諜報員は唖然とした表情で田中の顔を凝視していた。

一方の田中は、少年の身体を自分の方へ向かせるとまるで変わらない冷静な表情で、じっと少年の目を見据えている。

少年もあまりに突然のことだったためか、先程まで爆発してた感情が消え伏せ、ただ自分を見据える田中の顔を同じように見つめるほかなかった。




「落ち着いたかい?
 何かあったってのは分かったから。
 とりあえず、君の名前と年齢は?」


「す、鈴原トウジ、14歳…………」


「よし、トウジ君。
 君は今、避難シェルターを飛び出したわけだけど、それは何で?
 ナツミって誰?」




少年の精神状態を気遣ってか、一言ずつ丁寧に諭していく。

だが、先程までではないものの、ナツミという言葉を聴かされたトウジは再び興奮した声で田中へ訴えた。




「す、鈴原ナツミ! ワイの妹です!!
 シェルターの中探し回ったんやけど、どこにもおらんねん!!」



「妹さんの年齢は?
 学校にいたなら、ちゃんと避難できているはずだけど」


「そ、それが……。
 あいつ、風邪引いとって、今日は小学校休ませといたんです。
 せやけど……こんな事になって……。
 何度も電話したんやけど、あいつずっと家で寝とったらしくて……。
 せやけどッ! ちゃんと繋がったんです!
 それで、とにかくワイのいる第一中にすぐに来いって伝えたんやけど……。
 なんやデッカイ爆発とかもあったし、学校は人で溢れとって………」




勝気な顔つきとは裏腹に、トウジの発する声はどんどんとか細くしぼんでいった。

トウジの話を黙って聞いていた田中は、そばにいた諜報員に向き直り、即座に指示を飛ばす。

諜報員二人も、自分達のすることを既に理解しているのか、サングラスをかけた視線を田中の方へと向ける。




「念のためにすべての地下シェルターに放送を入れろ。
 名前は鈴原ナツミ、もしいたら、シェルターのどの出入り口でもいいから来るようにと」


「「了解」」




指示を受けた諜報員二人は携帯電話片手にシェルターの方へと走り出す。

残された田中はスーツのポケットから手帳とペンを取り出し、再びトウジへと向き直った。




「よし、トウジ君。
 ナツミちゃんの特徴を何でもいいから教えてくれ。
 年齢、身長、それと家の住所と学校もだ」


「はッ……はい!
 歳は8歳…小学二年生で――――」




田中はトウジが話す鈴原ナツミの特徴をメモに記していく。

その中から捜索に必要な情報を抜粋し、捜索班に指示を出す際のリストを手際よく作成していく。

最初とは打って変わり、すっかり疲弊した表情のトウジは、目の前の田中の言葉をすべて受け入れ、素直に従っていた。

最初にナツミと電話が繋がってから、トウジは現在までずっと後悔していた。

あの時、自分がもっと早く家まで妹を迎えに行っていればよかったのではないかと。

だが、実際は市内から押し寄せる人の山と、国連軍による厳戒な警備に阻まれ、まったく面識の無い人間と共に輸送ヘリに押し込まれ、この場所まで来てしまった。

シェルターの中でいくら妹の名前を大声で叫び、走り回っても見つける事が出来ず、最悪の事態ばかりが頭をよぎり、やがて冷静な思考を失った結果、いつの間にかシェルターを飛び出していた。

父も祖父も不在で、自分がしっかりとしなければいけなかったのに、と、トウジは今ほど自らを不甲斐ないと思ったことはなかった。

トウジから一通りの情報を引き出した田中は、手帳を閉じ、ポケットに戻した




「………よし。
 トウジ君、後は俺達に任せてシェルターに戻りなさい」


「い、いや! ワイも連れてって下さい!
 元はと言えば、ワイがしっかりせえへんかったこら、こないな事になってしもうたんです!」



「気持ちは分かるけど、無理だ。
 見ての通り、もう街に立ち入ることはできない」


「そこを何とか!
 お願いします! この通り!!」





「鈴原!!」




腰を直角に曲げて頭を下げるトウジの姿に困り果てていた田中の耳に、突如、少女の声が飛び込んできた。

声のする方を見ると、第3新東京市立第一中学校の制服を着た少女が特徴的なツインテールを揺らしながらこちらに走ってくるのが見えた。

さらにその後ろには、先程までこの場にいた諜報員二人がおり、少女を追いかけるようにこちらに向かってきている。

田中たちの場所まで辿り着いた少女は荒い息を必死に整えながら、しがみ付くようにトウジの着ているウィンドブレーカーの袖を握った。




「鈴…原ッ!! はぁ……はぁ……ナツミちゃんが行方不明って本当なの!?」


「い、いいんちょ!
 なんでこないなとこに!?」


「それはこっちのセリフよ!」




目の前に突然割り込んできた一般人の少女を見て、田中は横に立つ諜報員二人に説明を求める視線を送る。

それに気づいた諜報員は恐縮した口調で事情の説明をする。




「申し訳ありません……。
 命令どおり、シェルター内に放送を掛けたところ、この少女が慌てた様子で尋ねてきまして……。
 関係者かと思い事情を説明したところ、また勝手に……」


「何のために警備を置いてるのか分からんなぁ………」




部下の説明を聞き、田中は思わず苦笑いをしながらボヤいた。

その様子を見ていた少女は落ち着きを取り戻したのか、自らが行った軽率な行動に気づき、慌てて田中たちの前に踊りでて頭を下げた。




「あッ……あの!! すみません……私……。
 すごく慌てちゃって……ご迷惑かけたみたいで……」


「ん? ああ、いいんだよ、全然。
 君は……彼の知り合いかい?」


「は、はい……。
 私は、鈴原君と同じ第一中学校の同級生で、洞木ヒカリといいます。
 鈴原君の妹のナツミちゃんとも知り合いで………。
 あの! ナツミちゃんが行方不明って、本当ですか!?」


「うん、一応これからシェルター内も捜索させるけど、もしかしたら市内に取り残されてるかもしれない。
 ああ……そういえば名乗ってなかったね。
 俺達はここの警備を担当してるネルフ職員だ。
 俺の名前は田中………後ろの二人は……まぁ、いいか」


「「………………」」




”諜報員”という単語はあえて伏せ、田中は自らのIDカードを提示しながら簡単な自己紹介を済ませる。

ないがしろにされた二人は表情ひとつ変えずその場に佇んでいたが、サングラスの向こう側に何やら光るものがこぼれたのを田中はあえて無視する事にした。




「……とにかく、俺たちはトウジ君の妹さんの捜索を始める。
 だから君たちはシェルターに戻って、避難命令が解除されるまで外に出ないように」


「は……はい、わかりました」


「………………」




田中から受けた勧告に対して、洞木ヒカリはハッキリとした口調で返事を返したが、横に立っているトウジは納得いかない悔しそうな表情でじっと足元を睨み付けている。

ヒカリも、自分がこの場に駆け寄った際、トウジが叫んでいた内容が聞こえていただけに、トウジの心中を察し、辛そうに表情を曇らせた。

ヒカリは何とかトウジを励まそうと必死に掛ける言葉を思案していたが、ヒカリが口を開く前に、田中が一歩、トウジのそばに近寄り、顔を覗き込むように膝を着いた。




「安心しろ。
 かならず探し出して、また会わせてやる」


「………………」


「だからな、そんな情け無い顔するな。
 兄貴だったら、堂々と構えて待ってればいい。
 絶対に、また会わせてやる、約束だ。
 だから今は俺達に任せてシェルターに戻れ、もうすぐ食事も配給されるぞ」


「…………はい、分かりました!
 田中さん、妹のこと、よろしくお願いします!!


「あっ、わ、私からもお願いします!」




田中に掛けられた言葉に、トウジは再び深く頭を下げた。

そのトウジの姿に、隣で二人の様子を見ていたヒカリも、同様に頭を下げる。

彼の不安が消えることは無いだろう。

しかし、自分を勇気付けてくれた目の前の男に、トウジはすべてを任せる事にした。

その二人の様子に、満足そうに笑った田中は、トウジとヒカリのシェルターまでの送迎を後ろに控えていた諜報員のうちの一人に任せ、もう一方の諜報員を連れ、先程まで待機していたライトバンまで向かって歩いていく。

ライトバンの後部まで辿り着いたところで、田中に着いてきた諜報員が口を開いた。





「田中二尉、これからどのように?」


「上原、第一中から最後に輸送ヘリを飛ばしたのは何時だ?」


「………確か15時40分ごろだと。
 国連軍がN2を使った直後……電波障害の影響が消えるのを待ってからの再開でしたので、かなりの時間をロスしました」


「彼の話だと、妹に電話を掛けたのはN2が使われる前だ。
 土地勘のある人間が一時間以上も市内を彷徨っていたなんて事はないだろう。
 そう考えると、何かしらの理由で身動きが取れない状態だという可能性が高い」


「怪我をして動けない、または連れ去られたか……」


「まぁ、前者を考えるのが自然だな」




上原と呼ばれた諜報員との会話をしながら、田中はライトバンのトランクを開ける。

中は後部座席が取り外されており、広く取られたスペースの中には布団と毛布の敷かれたタンカと、簡単な医療道具が備えられ、保護した人間が負傷していた場合に最低限の処置が行えるようになったいた。

田中はそれら医療器具の中に無造作に置かれた黒い中型サイズのジュラルミンケースを取り寄せ、電子ロックのパスワードを打ち込み、ロックを解除する。

開けられたケースの上蓋にはネルフに所属する諜報部、保安局、一部部署の戦闘員に正式採用されているTDI KRISS Super V "Vector" 短機関銃が複数の予備弾倉と共に固定されていた。

田中の背後にいた諜報員はそれを目にした途端軽く眉をひそめたが、田中が手に取ったのは銃と共に収納されている黒いノートPCの方だった。

折りたたまれたディスプレイを開けると、待機状態にあった本体は即座に復帰し、画面に第3新東京市を直上から見下ろした地図を表示させた。

田中は先程トウジから聞き出した情報の中からトウジの自宅マンション、第一中学校の住所を入力する。

すると、それまで第3新東京市の直上を見下ろしているだけだった画面がズームされ、ディスプレイの対角する二点にトウジの自宅マンションが青、トウジが通い、妹であるナツミが避難するはずだった第一中学校が緑にマーキングされ、映し出された。

さらに、この二つを結ぶ最短距離を計測させ、その軌道を赤色に結ぶ。




「距離、およそ3.4km……。
 本人がこの最短ルートで目的地に向かっていれば捜索は容易いですが」


「主要な一般施設はすでにジオフロントに収容済みだ。
 今は使徒迎撃兵装ビルが市内に展開してかなり地勢が変化してる」


「なるほど。
 この情報だけじゃ、あまり当てになりませんね」




上原の落胆の混じった口調に、田中は数秒だけ思案を巡らせたが、結局はしらみつぶしの捜索しか手が無いと結論付け、キーボードの上に両手を走らせる。

ディスプレイの表示はさらに変化し、青にマーキングされたトウジの自宅と、緑にマーキングされた第一中を直線に結んだ楕円形状が形成された。

自宅を出て第一中に向かったのなら、反対の方向に進んだ可能性は低く、第一中を目的としていたならば、それ以上先に行く可能性は低い。

そう考えた田中は、その直線を長軸とし、その長軸を範囲に入れる短軸2kmの楕円を捜索範囲に設定した。

その様子を見ていた上原も納得したのか、顎に手を添えて軽く唸った。




「全端末でこの地図を共有できるようにしておいた。
 悪いが、休んでる連中も総出で捜索に当たろう。
 正直、もう時間が無い」


「了解しました」


「本部には俺が連絡する。
 行ってくれ」




田中からの指示を受けた上原は無線機を片手に無数の車両が止められた駐車場の奥へと消えていった。

残された田中は手元のノートPCを運転席に持ち込み、設置されているナビゲーションシステムとノートPCを接続し、ノートPCで入力した情報をナビゲーションシステムにインポートする。

読み込まれた捜索範囲と位置情報はビゲーションシステムにリアルタイム表示され、他の捜索班との情報共有も可能になった。

ライトバンのエンジンを掛けながら、田中は取り出した携帯電話で本部へ連絡を入れる。

やはり、数回のコールで電話に出たのは、先程と同様、ネルフ保安諜報部統括部長酒井ミナコ三佐だった。




「どうしたの?
 いきなりナビシステムが一斉にオンラインになって、こっちも騒がしくなってるんだけど。
 何かあった?」



「申し訳ありません。
 民間人一名の行方が分からないと、その親族から通報がありまして。
 これより、我々総出で捜索に当たります」


「待ちなさい。
 分かってると思うけど、もう一時間もしないうちに市内は戦闘区域になるわよ」



「分かっております」


「分かっている上で職員を危険に晒すことには賛成できないわね。
 第一、市内に残留しているという確信は?」



「ありません。
 しかし、その可能性が一番高い。
 民間人を取り残した責任はネルフにあり、それを直接担当している我々二課の責任です。
 我々はその責任を果たします」




酒井との電話を続けながら、すでに田中を乗せたライトバンは山道を下りだしている。

運転席に取り付けられたナビはライトバンの位置を正確に表示させながら、捜索範囲に決められた区域へと最短ルートで誘導していく。

完全に日の落ちた山道から見える第3新東京市には、戦火の光が先程よりも確実に近づいている。

あの戦火に呑まれる前に捜索対象者を見つけ、安全圏に運ぶことは困難を極めるだろう。

そもそも、見つかるという保証さえ全く無い。

普通に考えれば、まともとは言い難いこの状況でも、田中の瞳は揺ぎ無く前を見据えたままだ。




「…………責任はすべて自分が負うとでも言いたいの?」


「他のものを撤退させても、私は捜索を続けます」


「はぁ…………いいわ。
 作戦部と司令部には私から連絡を入れておきましょう。
 彼らの協力を得て、なるべくあなた達をサポートできるようにね。
 須川三尉にも伝えておくわ、必要なときは連絡を取りなさい」



「恐縮です」


「ふふ……思い出すわね、あなたと最初に会った時のこと。
 ま、今は昔話をしてる場合じゃないわね。
 無事を祈るわ、お互いに」



「はい、それでは後ほど」




――――――お互いに。

それは、危険な区域に立ち入る田中たちへの祈りであると同時に、この戦いに勝ち、明日また会えるようにという祈りでもあった。

すでにナビには、捜索に駆り出された他の諜報員の位置情報も表示され、田中のライトバンに後続している車両も映し出されている。

通話を終えた携帯電話をしまったと同時に、無線機の通信が入ってきた。




「田中二尉、上原です。
 応答を願います」



「田中だ。 どうした?」


「現在の状況を報告します。
 あれから二度、避難シェルター内に放送を掛け、今も内部を捜索していますが該当者は現れていません。
 また、市外に避難した民間人について国連軍に問い合わせましたが、やはり該当者はなしです」



「分かった。
 指示を出す、いったん切るぞ」


「了解」




上原との会話を中断し、散策に駆り出された諜報員が乗車している車両に詰まれた無線機へ指示が行くように周波数を切り替える。




「捜索に参加する全車両へ、こちら本活動の指揮を執る田中ヨシノブ二尉だ。
 本活動の目的は市内に取り残された民間人一名の救出、保護である。
 先ほど送信した捜索範囲に到達後、各自散開し捜索に当たれ。
 捜索対象者の特徴を述べる。
 氏名、鈴原ナツミ。
 年齢、8歳。
 性別、女。
 身長、130cm前後。
 服飾の特徴等は不明。
 なお、見ての通り市内は間もなく戦闘区域に指定される。
 自身の安全を最優先とし、捜索困難と判断した場合は速やかに退避せよ。
 以上だ。
 ………疲れてるところすまないな、もうひと踏ん張り頼む」




捜索の指示に激励の言葉を乗せ、田中は無線機を置き、ハンドルを握りながら前を見据える。

ライトバンは山道を抜け、まもなく市内へと入ろうとしていた。










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・










「使徒は間もなく第3新東京市に侵入します!!」


「迎撃中止!
 市内兵装ビルの稼動配置を変更。
 目標が第3新東京市に侵入してきたら、7番射出口の前まで使徒を誘導します。
 それまで各自待機しなさい。


「了解!!」





マコトの状況報告の声が飛び交う中、ミサトの指示でそれまで使徒に対して猛攻を掛けていた市外兵装ビル郡が瞬時に稼動を止めた。

使徒への攻撃を続けていく中、その行動にいくつかの特徴があることが分かった。

その中のひとつ、使徒は外敵――――この場合は兵装ビルになるが、それらからの攻撃を受けない限り、使徒は攻撃をしないことだった。

自らの進路を妨害されない限り、使徒は他の一切を無視して第3新東京市に進み続ける。

だが、ひとたびその進路を妨害されると、その対象を完膚なきまでに叩き潰す。

その行動を利用して現在まで使徒が第3新東京市へ到達する時間を兵装ビルの犠牲と引き換えに稼いできたわけだが、問題は使徒が第3新東京市に到達した場合、エヴァ初号機を多数設置されている射出口のどこから出撃させるべきかだった。

第3新東京市は使徒迎撃要塞都市と同時に、将来的に日本の新たな首都して機能するよう建設され、現在も一万数千人の住民を抱える生活都市でもある。

これからも住民がこの都市の中で生活していくことを考えると、都市機能を維持するための重要施設や政府関連施設の損害は出来る限り押さえなければならなかった。

これはあくまで日本政府からの要望であったが、無論、人類の未来をかけているこの戦いにそのような難題を押付けてくるなどミサトからすれば不届千万である、が、現在までの使徒との戦闘で出た兵装ビルを中心とした迎撃システムの損害はすでに筆舌に尽くし難いものとなっており、これら施設の改修に関する今後の金銭交渉を考えると、日本政府の要望にも一定の配慮をせざるを得なかった。

電気・ガス・水道・通信・輸送などのライフライン、政府・軍事関連施設の被害を最小限に抑えるために選ばれた場所が再開発区域や学校、住宅街が近くにある7番射出口だった。

一般家屋や学校なら壊滅しても良い――――もちろん、そういう訳ではない。

ただ、一般市民が国内で起こる何らかの軍事的行動による被害を受けた場合、現在の日本はそのすべてを補償するようになっている。

これは学校なども例外ではなく、言うなれば、人命以外ならば替えがきく上に市内のインフラを壊滅させるより遥かに安上がりだったからだ。

話は戻り、ミサトが市内の兵装ビルを温存し、稼動をコントロールするように指示を出したのは、最初に述べた使徒の反撃行動を逆手に取って使徒を目的の射出口まで誘導するためだった。




「リツコ、初号機とシンジ君の状況は?」


「最終チェックは終わったわ。
 パイロットの精神状態は相変わらずだけど、起動に支障はなし。
 後は実戦で動いてくれることを願うだけね」


「上等よ。
 青葉君、非戦闘員および民間人の非難状況は?」




ミサトが呼びかけたにも関わらず、シゲルからの返事はなかった。

不審に思ったミサトがシゲルの方を見ると、彼は内線を使って何やら話し込んでいる。

その表情は困惑しており、受け答えに切れが無い様子からも明らかに対応に迷っている様子が伺えた。

やがて内線を置いたシゲルはその視線を自分を呼びかけたミサトの方へと向ける。




「葛城一尉、非戦闘員および政府関係者の退避は既に完了しています……ただ………」


「何? 何か問題でもあったの?」


「はい、しばらく前に民間人の避難完了の報告が一旦は入ったのですが……。
 つい先程、民間人一名の捜索のため諜報員が市内に再び散開しているとの報告が……」


「なんですって……!?
 すぐに撤退させなさい! 作戦の妨げになるわ!」



「はっ、はい!
 いや、あの……これから保安諜報部長の酒井三佐が直接状況の説明に来られると……」


「状況の説明?
 そんなこと言ったって……」




シゲルの報告に困惑の表情を浮かべながらもミサトはしばし思考を巡らした。

その様子をマヤ、マコト、シゲル、さらに計器類の操作をしているリツコも横目で見つめている。

民間人が取り残されているという事態ならば諜報二課や保安局が動くのはミサトでも納得できるが、如何せんタイミングが悪すぎる。

当然のことながら、現状で最優先されるのは使徒の殲滅であり、民間人一人とそれを救出に向かう諜報員のためだけに作戦を中止する事はできない。

状況説明と銘打っても、相手も身内に関わる事態ならば何かしらこちらに要求してくるだろう。

その場合は、作戦部としての立場を明確に相手に伝えるだけであるし、いざとなれば後方に陣取るトップ二人が口を挟むはずだ。




「失礼します」




そこへ、まるでミサトの思案の決着とタイミングを合わせたかのように女性の声が発令所最上層部出入り口のスピーカー越しにミサト達の耳に飛び込んできた。

やがて開いた入り口から高いハイヒールの音と共に入室したのは、タイトな黒色のスカートスーツに身を包み、黒縁のシャープな眼鏡に黒のロングヘアーをシニヨンにまとめた酒井ミナコ三佐だ。

そのすぐ後ろには数枚の書類の束とノートPCを小脇に抱えた須川トモミ三尉が酒井に続いて入室してきた。

二人はミサト達のいる発令所上層部の中ほどまで歩くと、後ろを振り返りネルフ最高司令官であるゲンドウと、副司令官である冬月に向かい敬礼を送る。

冬月はそれに右手を上げることで答えたが、ゲンドウは顔の前で両手を組む独特の姿勢のまま二人を見下ろしているだけだった。

そうして儀礼を済ませた二人は、改めて発令所の奥へと足を進める。

そうしてミサトの前まで歩み寄った酒井は、その冷淡で高圧的な顔立ちとはかなりギャップのある穏やかな微笑を浮かべ、ミサトへと右手を差し出した。




「はじめまして、葛城一尉。
 私はネルフ保安諜報部統括責任者の酒井ミナコ、階級は三佐です。
 後ろにいるのは同部署二課の須川トモミ三尉ですわ」


「須川です。
 よろしくお願いします、葛城一尉」


「葛城です、こちらこそよろしくお願いします」




背後の巨大モニタに映る現在の危機的状況とは打って変わり、穏やか過ぎる二人の雰囲気に一瞬呆気に取られたミサトだが、それを態度に出すまいと、酒井と、次に差し出された須川の右手に自らの右手を重ねる。

その様子にオペレーター三人組も互いの顔を見合わせ、使徒の動向に気を配りつつ三人のやり取りを見守っている。

それはリツコも同様で、エヴァ開発のトップとして殲滅作戦の技術面をサポートする人間ではあるが、こうした場面では自分が口を挟む余地が無いことをわきまえているからだ。




「早速ですが、本題をお聞かせ願えますでしょうか?
 ご覧の通り、状況は緊迫しています。
 出来る限り手短にして頂けると、こちらとしても助かるのですが」


「承知しておりますわ、葛城一尉。
 事前にお知らせした通り、諜報二課は現在、民間人一名の捜索、および救出のため第3新東京市内に散開しています。
 よって、我々保安諜報部は全体でこれをサポート出来るよう体制を整えています。
 しかし、現在市内は使徒の接近により非常に危険な状況に置かれているため、我々としても思うように行動に移せないでいるのです。
 そこで、現在ネルフの前線に立つ作戦部、司令部、技術部にご助力を願えないかと出向いた次第ですわ」




握手を終えた酒井は穏やかな表情はそのままに淡々と淀みない口調で用件を述べる。

対照的に、酒井に対してやりづらさを感じているミサトは無意識に険しい表情を浮かべてしまっていた。

なにせ、相手は自分より一階級上の人間だ。

さらに言えば、今会話を交わしている相手はネルフ保安諜報部、一課、二課、三課、さらにネルフの保有する自警組織である保安局を統括する幹部の一人である。

ミサトとしても慎重に言葉を選ばざるを得なかった。




「助力と言うと、具体的には?」


「エヴァンゲリオンを使用した戦闘作戦の詳細情報を提供していただくこと。
 MAGIとリンクする衛星システムの一部をこちらのオペレーターに共有していただくこと。
 閉鎖された道路の一部を開放していただくこと。
 この三点です。
 本作戦の指揮を取る諜報二課、田中ヨシノブ二尉から捜索範囲や人員配置に関するデータが送られてきていますので、ご覧いただければと。
 ………須川さん?」


「はい」




酒井から掛けられた声に須川は短く答えると、空いているコンソールの上でノートPCを開き、ドライブからディスクを取り出しミサトの方へ手渡した。

ミサトは手元のディスクをどうするべきか一瞬だけ迷ったが、状況的に相手に突き返す選択肢など存在しないことは明白であり、すぐに後ろに控えるリツコの元へと歩み寄り、ディスクを渡した。




「リツコ、お願い」


「時間がないわよ、早く話を付けなさい。
 さっき相手が言った要求だけど、技術部としては何の問題もないわ。
 要はあなたの決断次第ね」


「分かってるわよ、とにかく早くッ」


「はいはい。
 マヤ、お願い」


「はい、先輩」




リツコから預かったディスクをマヤがドライブに挿入し、立ち上がったセットアップソフトに従ってディスクの中に収められたデータを加工していく。




「ファイル変換完了。
 MAGI広域衛星監視システムにインポート。
 結果をサブモニタにまわします」




展開されたデータの内容がMAGIの制御下にある衛星システムに反映され、捜索範囲に色づけされた範囲と、市内に展開している諜報員達の位置情報が表示される。

それを見た瞬間、ミサトは即座にマヤへ次の指示を出していた。




「伊吹二尉。
 そのデータを7番射出口の周辺地図と照合して」


「はっ、はい!」




マヤの操作により、エヴァ初号機と使徒との戦闘開始地点とされる7番射出口を中心とした地図情報が別のホログラムモニタに表示され、今も諜報員達の位置情報が刻々と更新され続ける捜索範囲を示した地図情報とピッタリと重ねられる。

ミサトから指示を出された時点である程度予想出来ていたとはいえ、それを見たマヤは絶句せずにはいられなかった。

マヤだけではない、シゲルもマコトもそれは同様で、状況がよく飲み込めていない下層に待機している職員はともかく、事実を目の当たりにしても冷静でいられるリツコやミサト、冬月やゲンドウの方が異質と言える。

数秒、モニタのデータを凝視したミサトはゆっくりと酒井達の方へと振り返る。

そこには予想通りというべきか、先程と何一つ変わらない表情でミサトを見据える酒井と、驚愕とまで言わずとも、焦りの表情を浮かべている須川の姿があった。




「見ての通りです、酒井三佐。
 我々作戦部は市内兵装ビルを使用し、エヴァ初号機出撃地点である7番射出口直線状まで使徒を誘導します。
 そちらが提供したデータを見る限り、その捜索範囲は本作戦の想定戦闘区域の3分の2と重なります。
 伊吹二尉、エヴァと使徒の戦闘が始まった場合、被害区域はどの程度になる?」


「詳細なことはわかりませんが……。
 使徒のコアより射出される加粒子攻撃の威力と、兵装ビルからの砲爆撃を考えると、ここに表示されているすべてが被害区域になると思われます……」


「……酒井三佐。
 本作戦の指揮を取る責任者として、救出活動に当たる諜報員に市内からの即時撤退を求めます」


「いいえ、葛城一尉。
 我々は救出に当たっている現場の人間にすべての判断を任せます。
 彼らが撤退の決断を下さない限り、たとえ微力でも、我々は作戦成功のために尽力するだけです」




運が悪い事に、田中達諜報二課の職員がトウジの妹であるナツミの残留範囲として捜索している場所と、これからエヴァ初号機が出撃する7番射出口を中心とする地域は、ほぼ同じ場所となってしまっていた。

使徒との戦闘が始まれば、当然その場所に留まっている人間が無事で済む保障などない。

だからこそ、ミサトは酒井へと警告を発しているにも関わらず、目の前の本人は先程から何一つ変わらない表情で、同じく変わらない答えを返してきた。

非常事態という緊張感も相まってか、その瞬間にミサトの頭に急激に血が上った。




「あんたいい加減にしなさいよ!!
 このまま戦闘が始まったら、あんたの部下が大勢死ぬかもしれないのよ!?
 このまま放って置いて見殺しにするつもり!?」





ミサトは自分の立場も忘れ、腹の底から押し寄せる感情を相手に投げつけた。

人一人の命が掛かっているのは重々承知だ。

しかし、そのためにそれ以上の犠牲が発生するかもしれないリスクを避けようともしない酒井の考えをミサトは到底理解することは出来ない。


――――そんな人間は人の上に立つべき人間ではない。


乱れた息を整えながら、最後にミサトは自分の心の中でそう付け加えた。

一方、状況がよく飲み込めていなかった下層にいる職員達がミサトの怒号によって何事かと騒ぎ始めていた。

マコトが気を利かせ、侵攻し続ける使徒の監視を怠らぬようアナウンスをした事により、一旦収まりはしたが、無意味に周囲の不安を煽る今の状況が好ましくないのは誰の目から見ても明らかだ。




「………葛城一尉。
 あなたはひとつ勘違いをしているわ」


「勘違い……?」




彼女の癖なのか、酒井は黒縁眼鏡の位置を指で直すと、先程までの穏やかな表情が途端に思考の読み取れない無表情に変わっていった。

その変貌に若干動揺したミサトだが、自分も啖呵を切ってしまった手前、こうなればヤケだと言わんばかりに強気の表情を崩さない。




「使徒出現の一報を受け、国連軍の第一陣が使徒殲滅に向かうよりも前に、我々は第3新東京市市民の救出を開始し、現在まで誰一人として死傷者を出していません。
 それは偏に、我々が日ごろより国連軍、日本政府、その他、組織内外との協力関係を築いていたからこそ。
 そして、その中心にいたのが保安諜報部二課の職員達です。
 ………当然、諜報部を統括する人間として、田中二尉には撤退の命令を下しましわ。
 しかし、彼は引かなかった。自分達の責任だと言って」




酒井は静かに、そして諭すようにミサトへ語りかける。

いや、それはたまたま目の前にミサトがいるというだけで、使徒の撃滅しか頭にない発令所のすべての人間に向けた言葉なのかもしれない。

さらに酒井の言葉は続く。




「彼らも戦っているのです、もちろん我々も。
 例え、その戦いの中で命を落とすことがあっても、彼らはそれを本望だと思うでしょう。
 しかし、戦いもしないまま全てを放棄し、結果、民間人を見殺しにしてしまったら。
 それは勝利ではありません、彼らにとっては。
 ならば、私は彼らの意思を尊重し、彼らを無事に帰還させるために全力を尽くしますわ。
 ………それはあなたも同じじゃなくて? 葛城一尉」




酒井が最後に締めくくった言葉を聞き、ミサトの頭の中には一人の少年の姿が浮かんでいた。

まだ幼い身体で、襲い来る恐怖に身体を震わせながらも、少年は戦うことを選んでくれた。

彼が生きて戻ってくるためなら自分は何でもやる…………のか?

なぜかミサトには断言することができない。

本当に自分はシンジのために全てを投げ出すことができるのか、命さえも。

だめだ、自分が死んでしまったら、目的が果たせない。

自分のこれまでの人生は、この目的を果たすためにあったものではないのか。

そこまで考え、そしてミサトは自分に絶望した。

自分は、シンジを自分の目的を果たすための道具としか考えていない。

シンジが死んでも自分が全てを背負い生きていく―――、そんな綺麗事で自分を着飾っていただけだ。

酒井に反論する言葉も、彼女を否定する資格も、自分は持ち合わせていないのだ。

ミサトは小刻みに震える唇を噛み、震える手を握り締め、視線を床に落とした。




「もういい、そこまでだ」





ミサトの沈黙により固まった場の空気を動かしたのは、意外にもそれまで一言も言葉を発することのなかったゲンドウだった。

隣に立っている冬月を始め、上層にいる全員の視線を受けながら、あくまでその独特の姿勢を保ったままゲンドウは言葉を続ける。




「好きにしたまえ、酒井三佐。
 だが、我々の目的はあくまで使徒の殲滅。
 すべてはそれを優先させる。
 それを妨害するような真似は断じて許さん、そのときは無条件に撤退してもらう。
 話は以上だ」


「感謝いたします、碇総司令官」




ゲンドウに向き直った酒井は直立不動の敬礼を送り、須川を促して発令所の出入り口まで歩いていく。

そのまま発令所を出て行くと思いきや、彼女は再び振り返り、沈んだ表情で自分を見つめるミサトの顔へ視線を送った。




「……お互い、成すべき事をしましょう、葛城一尉。
 それでは、後ほど部下をこちらに回しますわ」




そう言葉を残して、二人は発令所から去った。

酒井に投げつけられた言葉はミサトの認めたくない本性を露呈させ、大きな打撃を残していった。

しかし、もはや止めることの出来ない脅威は、彼女を感傷に浸る時間さえ与えはしない。




「葛城さん!! 来ます!!!




マコトの叫びはミサトを現実へと引き戻す。

背後のメインモニタには山間から現れた使徒が道路や電柱を薙ぎ倒しながら、ついに第3新東京市へと侵攻し始めていた。


――――――お互い成すべき事をしましょう、葛城一尉。


先程、酒井から言われた言葉がミサトの脳内にこだまする、




「わーってるわよ、んなことッ」




―――――そうだ、すべてはこいつを、使徒を倒してからだ!


雑念を払拭するように、彼女は心の中で叫んだ、

今自分が成すべき事は使徒を倒すこと。

それを果たさなければ、すべては始まらない。




「これより使徒誘導攻撃作戦を開始!
 第一攻撃、用意!」



「了解。
 市内第3セクター第1、第2兵装ビル稼動準備完了」




ミサトは高ぶる感情を落ち着けるようにひとつ深呼吸をする。

それから使徒の写ったモニタを真っ直ぐ見据え、そして言い放った。




「攻撃開始!!」




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